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ローコストキャリアことLCCは、欧米での歴史は長いものの、日本で運航を開始したのは2007年。つい最近のことです。短い区間は数千円、キャンペーンなどの時には数百円というフライト料金もあり、特に若年層を中心に人気が急上昇しており、今では海外も含め、数多くの航空会社が参入しています。
その最大の魅力は「安さ」ですが、その反面、安全面を疑問視されることが多く、「本当に安全なのか」と不安に思う人も多いことでしょう。でも本当に、「LCCは安いから危険」なのでしょうか。
ここでは、LCCの安全性をひもとくと共に、レガシーキャリア(既存の大手航空会社)との違いや、LCCのメリットなどについてご紹介します。

安いから不安?LCCは本当に危険なの?

安いから不安?LCCは本当に危険なの?

最初に、LCCの安全性について確認してみましょう。

航空機事故は減っている

全世界の航空関連の安全を支援する航空安全財団が発行しているAviation Safety Networkのデータをみると、飛行機の年間の事故件数はここ数年減少傾向にあり、2018年の旅客機の事故は18件でした。20年前には年間50-60件前後の事故があったことと比べると、隔世の感があります。この減少の理由は、旅客機の性能の向上や、安全対策の強化などが影響していると考えられます。
また、LCCが増えた現代でこれだけ事故が減っているということは、一概にLCCの事故が多いわけではないと理解できます。

安全性ランキングでLCCが上位にランクイン

そもそもLCCが危険だというデータは、どこにもありません。航空会社の世界的な格付け会社として、ドイツの「JACDEC(Jet Airliner Crash Data Evaluation Centre)」と、オーストラリアの「エアライン・レイティングス(AirlineRatings)」の2社があげられますが、この2社は毎年自社の基準で審査した安全度ランキングを発表しています。

JACDECの2018安全度ランキング

この2社のうち、ドイツのJACDECの格付けは、過去30年間の重大事故をデータ化し、独自の指数によりランキングしたもので、国際法令や安全基準に基づき、運航管理や危機管理、整備や保安などの8分野で、900以上の安全監査基準を参照した、質の高い調査として知られています。
この、JACDECの最新安全度ランキングをみると、ノルウェーの「ノルウェージャン・エアシャトル」の2位を筆頭に、上位20社の中にLCCが7社ランクインしています。昨年はランク外だったところが多数ランクインしており、自社努力により、急激に安全性を向上させていることがわかります。

【JACDEC2018年安全度ランキング】 ※青欄がLCC

2018年順位 航空会社名 2017年順位
1 エミレーツ航空 7
2 ノルウェージャン・エアシャトル 23
3 ヴァージン・アトランティック航空 14
4 KLMオランダ航空 5
5 イージージェット 28
6 フィンエア ランク外
7 エティハド航空 8
8 スピリット航空 ランク外
9 ジェットスター航空 26
10 エア・アラビア ランク外
11 ブエリング航空 ランク外
12 キャセイパシフィック航空 1
13 エル・アル航空 ランク外
14 シンガポール航空 32
15 エバー航空 6
16 ユーロウィングス ランク外
17 ジェットブルー航空 17
18 北京首都航空 ランク外
19 オマーン・エア ランク外
20 エア・カナダ 16

エアライン・レイティングスの2018LCC安全度ランキング

もうひとつのオーストラリアのエアライン・レイティングス社の2018年安全度ランキングは、フルサービス部門とLCC部門に分けて統計・発表されます。LCCは上位10社が公表され、順位は明らかにされません。みると、日本のジェットスター・ジャパンと同系列の、ジェットスター航空とジェットスター・アジアがランクインしています。いずれも親会社は同じカンタス航空です。

【エアライン・レイティングスLCC2018年安全度ランキング】

航空会社名 本拠地
エアリンガス アイルランド
Flybe(フライビー) イギリス
フロンティア航空 アメリカ
香港エクスプレス航空 香港
ジェットブルー航空 アメリカ
ジェットスター航空 オーストアリア
ジェットスター・アジア航空 シンガポール
トーマス・クック航空 イギリス
ヴァージン・アメリカ アメリカ
ブエリング航空 スペイン
ウェストジェット航空 カナダ

レガシーキャリアと変わらないLCCの安全性

このように、安全度ランキングでもレガシーキャリアと肩を並べるLCCは、もはや安全面に不安があるとは言えない状況になっています。欧米では、国の厳しい安全基準が設けられており、LCCだからといって整備面を怠っているわけではありません。LCCの安全性は、レガシーキャリアと全く遜色ないと言っても過言ではありません。

LCCが、レガシーキャリアと遜色なく安全な理由

LCCが、レガシーキャリアと遜色なく安全な理由

次に、LCCとレガシーキャリアで安全性に違いがあるのか、確認しましょう。

そもそもLCCとは

一般的に、航空券が安いことで知られるLCCですが、その安さの秘密は、以下のようなものがあげられます。

使用機種を1種類に統一

レガシーキャリアでは、複数の機種を利用していますが、LCCでは、1種類に統一することが多いようです。航空機免許は機種ごとに必要ですが、機種を統一することでパイロットや整備士の教育コストを抑えることができるほか、部品等の在庫も1種で済むため、コストダウンを図ることができます。

座席数を多くする

LCCでは座席数を増やすことにより、1度の運搬数を多くしています。その分、座席間が狭くなりがちですが、乗客を多く輸送して、1人あたりコストを削減しています。

設備・サービスの簡素化

LCCでは、機内設備やサービスの省力化を図り、コストを抑えています。座席シートのグレードダウン、座席モニターやエンタメ機器の廃止、レガシーキャリアでは無料で提供される機内食や飲料サービスなどを廃止・縮小することで、設備費や人件費を抑えています。

一部有料サービスの導入

LCCでは、毛布や枕の貸し出しを有料にするなど、一部サービスを有料にしている場合があります。また、預ける手荷物重量の上限をレガシーキャリアよりも厳しくし、重量オーバー分を課金することで収入につなげ、燃料の節約にもつなげています。

駐機時間の短縮

通常飛行機は、同じ機体で往路と復路を運航しますが、LCCでは、往路到着後から、復路の出発時間までの駐機時間を短くすることで、1機当たりの運用効率を上げる努力を行っています。LCCのフライト時間に遅延が生じやすいのはこのためですが、最近ではスカイマークのように、全航空会社の中で「定時運航率NO.1」となったLCCもあり、各社とも改善に努めています。

ネット予約をメインにして窓口を縮小

LCCのチケット販売は、ネット予約か電話予約を中心に行い、空港や都市部での窓口を減らして、人件費・設備費等を極力抑えています。

採算性の高い路線のみ運行

黒字が見込めない路線は避け、常に満席になるような黒字路線のみを運行することでリスクヘッジを行い、収益性を高める努力をしています。

人気空港を使わない

LCCでは、空港着陸料が安い第2ターミナルなどを利用しています。成田・羽田に比べアクセスの悪い茨城空港を利用しているのは、茨城空港の着陸料が成田や羽田より3割安いからです。

以上がLCCのフライト料金を安くできる理由ですが、安全面に影響するような要素はひとつもありません。

LCCが危なそうと思われている4つの誤解

なぜ安いかを理解できれば、LCCの安全面は何も問題がないことがわかりますが、なぜ誤解されているのでしょうか。

使いまわされた古い機体を使っているのでは?

確かに中には、レガシーキャリアからの払い下げの機体を使うところもあるようですが、多くのLCCは新造機を購入しています。新造機を単一機材で揃えることでコストダウンを図るので、機体単体の価格を重視しているわけではありません。加えて、国で定められている厳しい安全基準に合格した機体しか使用できないので、LCCの機体の安全性には疑いの余地がありません。

給料が安いパイロットで大丈夫?

パイロットに高い給料を払えないので、その分レベルの低いパイロットを採用しているのでは?という誤解も多いようです。LCCのパイロットの大半が、大手航空会社からヘッドハンティングされた人です。さらに、国令による基準をクリアしていなければ運航はできないので、これも大きな誤解です。

LCCの整備は甘いのでは?

通常LCC各社は、軽整備に関しては、自社の整備部門で行います。機材が単一なので整備士が技能を習得するのが速く、レガシーキャリアに劣ることはありません。一方、重整備は、大手航空会社も利用している整備会社に委託する場合が多いようです。そのため、LCCだけが整備が甘いという理由にはなりません。

重労働でスタッフが疲弊している?

LCCでは、限られた人員が、1人何役もこなすということが一般化しており、確かに勤務密度は高いと言えます。ただし、働き方改革により法規制が厳しくなっている中で、労働時間が軽減されていくことは間違いないはずです。また、大手航空会社でも、その役割によって過酷な勤務をこなす人は多く、LCCの従業員のみがあてはまることではありません。

どうしても気になるなら個別にチェック

こうしてみると、LCCもレガシーキャリアも、安全面では全く違いがないことがわかります。ただし、急成長中で、社内の整備もままならないLCCが事故を起こしたなどのニュースを耳にすると、心配になる人もいると思います。もしどうしても気になるのであれば、LCC各社が自社独自の安全への取組などを自社サイトで紹介していますので、チェックしてみるようにしましょう。

LCC各社の安全向上のための取組

以下に、主な日本のLCCの安全向上のための取組をご紹介します。

ピーチ・アビエーション

「安全」こそが何よりも優先されるべき事項と位置付け、世界で安全性が認められているA320という機体のみを使用。欠航率もJAL・ANAと変わらない

スカイマーク

元パイロットなど、航空会社OBである整備のエキスパートを安全担当顧問として迎え入れ、社をあげて安全性向上に取り組んでいる。行動指針は、ヒューマンエラーを起こさせない規定・手順と発言しやすい職場環境を整え、部門を超えた確認会話の促進など実施している

AIR DO

「安全を絶対的使命として追求する」ことを企業理念の冒頭に掲げ、2016年からの3か年で「安全行動指針の浸透」「安全行動指針における弱点を認識し、強みに変える」「埋もれているリスクの掘り起こしと、先取りした安全対策の推進を図る」を推進している

ジェットスター・ジャパン

親会社カンタス航空の安全基準を採用し、「安全の確保は、まず人への配慮から」を基本に、安全な就航を心がける。JALよりも厳格な出発ゲートでの手荷物検査の実施なども行う

バニラエア

「安全は経営の基盤であり、社会への責務である」「私たちはお互いの理解と信頼のもと、確かな仕組みで安全を高めていきます」「私たちは一人ひとりの責任ある誠実な行動により安全を追求します」という安全理念を設けている

スターフライヤー

「会社の使命」「安全第一」を、社員全員が頭で理解するだけではなく、行動が伴うことで安全運航を実現する

ソラシドエア

安全への取り組み掲げた「社長宣言」を公開し、整備不良や機内点検に不備がないような人員確保と、有資格者を半数以上配置することでチェック不足やケアレスミスの防止を徹底している

LCCだからこそ自分らしい快適な旅ができる!

LCCだからこそ自分らしい快適な旅ができる!

LCCもレガシーキャリアも、その安全性に違いがないことがわかると、LCCの「破格の安さ」は、やはりとても大きな魅力です。また、無駄なサービスは必要ないとする人や、短時間フライトなので座席が狭くてもエンタメ設備がなくても気にならない人も多く、そうした人にとっては、LCCという選択肢が増えたことは、むしろ歓迎すべきことです。
ここでは、LCCのメリットと、LCCだからできる旅の楽しさについて、ふれておきましょう。

旅のグレードアップができる

レガシーキャリアだと往復5万円かかるフライト料が、LCCだと1万円で済むと仮定すると、その差額の4万円分を、旅のグレードアップに充てることができます。ホテルをランクアップしたり、贅沢な食事をしたり、訪問先を増やしたり、旅の楽しみを拡げることができます。

必要なサービスのみセレクトできる

LCCでは、ネットで予約する時にサービスの有無をセレクトができますが、これらは自分に必要なものだけをカスタマイズできるので、自分好みの旅行が楽しめます。

各社独自のサービスがうれしい

LCC各社は、安さだけではなく、それぞれ独自の魅力や強みを発揮しようと、いろいろな努力を行っています。例えば、スカイマークは自社努力により、定時運航率NO.1となりました。ほかにも、機内サービスで軽食を出すジェットスターや、北海道にゆかりのある会員向けに「道民割」を設定しているAIR DOなど、各社ならではのさまざまなサービスを提供しています。こうしたオリジナリティあふれる各社のサービスもチェックして、自分好みの、「LCCだからできるおトクで快適な旅」をアレンジしたいですね。