空港

ローコストキャリアことLCCは、欧米での歴史は長いものの、日本で運航を開始したのは2007年からとつい最近です。

最大の魅力は安さですが、安さゆえに安全面を疑問視されることも少なくありません。

ここでは、LCCの安全性を紐解くとともに、レガシーキャリア(既存の大手航空会社)との違いや、LCCのメリットなどについてご紹介します。

データから見るLCCの安全性

安いから不安?LCCは本当に危険なの?

そもそもLCCが特別危険だというデータは、どこにもありません。

ランキングや航空事情に関する資料をもとに、LCCの安全性をみてみましょう。

【JACDEC】2018年の航空会社安全度ランキング

航空会社の世界的な格付け会社であるドイツの「JACDEC(Jet Airliner Crash Data Evaluation Centre)」Jでは、過去30年間の重大事故をデータ化し、独自の指数によりランキングを作っています。

国際法令や安全基準に基づき、運航管理や危機管理、整備や保安などの8分野で900以上の安全監査基準を参照した質の高い調査です。

2018年順位 航空会社名 ※青欄がLCC 2017年順位
1 エミレーツ航空 7
2 ノルウェージャン・エアシャトル 23
3 ヴァージン・アトランティック航空 14
4 KLMオランダ航空 5
5 イージージェット 28
6 フィンエア ランク外
7 エティハド航空 8
8 スピリット航空 ランク外
9 ジェットスター航空 26
10 エア・アラビア ランク外
11 ブエリング航空 ランク外
12 キャセイパシフィック航空 1
13 エル・アル航空 ランク外
14 シンガポール航空 32
15 エバー航空 6
16 ユーロウィングス ランク外
17 ジェットブルー航空 17
18 北京首都航空 ランク外
19 オマーン・エア ランク外
20 エア・カナダ 16

出典:JACDEC – 航空安全情報センター

2018年のランキングをみると、ノルウェーの「ノルウェージャン・エアシャトル」の2位を筆頭に、上位20社の中にLCCが7社ランクインしています。

前年はランク外だったところが多数ランクインしており、自社努力により、急激に安全性を向上させていることがわかります。

安全度ランキングでもレガシーキャリアと肩を並べるLCCは、格安を理由に安全面に不安があるとは言えない状況です。

【AirlineRatings】2025年のLCC安全度ランキング

オーストラリアの「AirlineRatings(エアラインレイティングス)」社が発表した2025年安全度ランキングのうち、LCC部門を紹介しましょう。

過去2年の重大事件や事故率、パイロットのスキルと訓練など9つの項目から総合的にランク付けしています。

同社のデータはCNNなど大手メディアでも引用されており、信用性は十分です。

2025年順位 航空会社名
1 香港エクスプレス
2 ジェットスターグループ
3 ライアンエア
4 イージージェット
5 フロンティア航空
6 エアアジア
7 ウィズエア
8 ベトジェットエア
9 サウスウエスト航空
10 ボラリス

出典:AirlineRatings「The World’s Safest Airlines for 2025

日本のジェットスター・ジャパンと同系列の「ジェットスターグループ航空」がランクインしており、2位という非常に高いランクに位置づけられました。

上位ほど安全性の高いLCCである指標になり、航空会社選びの参考の一つとして捉えられるでしょう。

2021年までの航空機事故数

航空安全財団が発行しているAviation Safety Networkのデータをみると、航空機事故の件数は年々減少傾向にあり、2021年は20件でした。

約20年前は年間40〜50件前後だった事故数と比べると、明確に減っていることがわかります。

旅客機の性能の向上や安全対策の強化が影響していると考えられますが、LCCが増えているにもかかわらず事故数が減っているということは、一概にLCCを危険視するのは難しいでしょう。

航空関連については各国の厳しい安全基準が設けられており、LCCもその基準に則っています。

LCCの安全性は、レガシーキャリアと全く遜色ないと言っても過言ではありません。

LCCが危なそうと思われている4つの誤解

lcc-misunderstanding

LCCは格安な分、安全面に問題があるのではと誤解されがちです。
なぜそのような誤解が起こっているのでしょうか。

使いまわされた古い機体を使っているのでは?

LCCが安いのは、使いまわした古い機体を使っているからだと思う人もいるかもしれません。
しかし、多くのLCCは新造機を購入しています。

確かに中には中古の機体を使うところもあるようですが、近年は新造機を一斉導入するケースも少なくないのです。

中古機材の導入には整備における確認事項が多く、かえってコストがかさむことがあります。
国内では特に、新造機を単一機材で揃えることでコストダウンを図るのは、戦略の一つです。

中古か新造機かに関わらず、国で定められている厳しい安全基準に合格した機体しか使用できないので、LCCの機体の安全性には疑いの余地がありません。

給料が安いパイロットで大丈夫?

高い給料を払えない分、レベルの低いパイロットを採用しているのでは?という誤解も多いようです。

LCCのパイロットの大半が、大手航空会社からヘッドハンティングされているので、レガシーキャリアとのスキル差はほとんどありません

さらに、国令による基準をクリアしていなければ運航はできないので、LCCのパイロットだからレベルが低いというのは大きな誤解です。

パイロットに関しては、ピーチ航空のパイロット育成制度を利用した訓練生が、副操縦士の昇格試験に合格したことが話題になりました。

国内LCCで自社パイロットの育成に乗り出したのはピーチが初であり、LCCパイロットのスキルがますます高まることも期待されます。

LCCの整備は甘いのでは?

通常LCC各社は、軽整備に関しては自社の整備部門で行います。
機材が単一なので整備士が技能を習得するのが速く、レガシーキャリアに劣ることはありません。

一方、重整備は、大手航空会社も利用している整備会社に委託する場合が多いようです。
そのため、LCCだけが整備が甘いという理由にはなりません。

LCC安全度ランキングで2位のジェットスターを例にすると、フライト担当のパイロットと整備士が密に連携したり、フライト中の情報を整備士が即座にキャッチできるシステムを導入したりしています。

単一機体による高い稼働率だからこそ、独自の整備体制によって安全性を維持しているのです。

重労働でスタッフが疲弊している?

LCCでは人員コスト削減のため、1人が何役もこなすことが一般化しており、確かに勤務密度は高い傾向です。

ただし、働き方改革により法規制が厳しくなっており、労働時間が軽減されていくことが予想されます。

また大手航空会社でも、役割によって過酷な勤務をこなす人は多く、LCCの従業員のみがあてはまることではありません。

LCCが安さと安全性を両立する理由

LCCが、レガシーキャリアと遜色なく安全な理由

一般的に、航空券が安いことで知られるLCCですが、その安さの秘密は以下のようなものがあげられます。

LCCのフライト料金が安い理由の中には、安全面に影響するような要素はありません。

使用機種を1種類に統一している

レガシーキャリアでは複数の機種を利用していますが、LCCでは1種類に統一して費用を削減しています。

航空機免許は機種ごとに必要であるため、機種を統一することでパイロットや整備士の教育コストを縮小可能です。
部品等の在庫も1種で済むので、コストダウンにつながります。

座席数を多くしている

LCCでは座席数を増やすことにより、1度の運搬数を多くしています。
その分、座席間が狭くなりがちですが、乗客を多く輸送して、1人あたりのコストを削減しているのです。

設備・サービスを簡素化している

LCCでは機内設備やサービスを最低限にすることで、コストを抑えています。

座席シートのグレードダウン、座席モニターやエンタメ機器の廃止、レガシーキャリアでは無料で提供される機内食や飲料サービスなどを廃止・縮小することで、設備費や人件費を抑えています。

有料サービスを多くしている

LCCでは、毛布や枕の貸し出しといった一部サービスを有料にしている場合があります。

また、預ける手荷物重量の上限がレガシーキャリアよりも厳しいケースがほとんどです。
重量オーバー分は有料にすることで収入につなげたり、厳しい重量制限によって燃料を節約したりし、格安な料金設定を可能にしています。

駐機時間を短縮している

LCCでは飛行機の駐機時間を短縮することで運用効率を上げ、チケットの価格に反映しています。

レガシーキャリアでは1時間の駐機時間をとるとした場合、LCCでは40分ほどしか駐機しません。

駐機時間の短縮で1日あたりの運航便数を増やし、運用効率の向上によって格安航空券の提供を実現しています。

ネット予約をメインにしている

LCCのチケット販売は、ネット予約がメインです。
空港や都市部での窓口を減らして、人件費・設備費等を極力抑えています。

電話や空港カウンターなどの対人窓口による予約もできますが、手数料が高額です。
予約方法による手数料差を設けることで、人件費の安いネット予約を促しています。

採算性の高い路線のみ運行している

LCCでは赤字になってしまうような路線は避け、常に満席になるような黒字路線のみを運行しています。

これによりリスクヘッジを行い、収益性を高める努力をしています。

人気空港やターミナルを使わない

LCCでは、空港着陸料が安い第2ターミナルなどを利用しています。

例えば、成田・羽田に比べアクセスの悪い茨城空港を利用しているLCCがあるのは、茨城空港の着陸料が成田や羽田より3割安いからです。

人気の空港やターミナルの利用を避けることでコストダウンを図り、航空券の値段にも反映しています。

LCCや航空各社の安全向上のための取り組み

lcc-Safety initiatives

安全に関するデータやLCCの安さの理由を紐解けば、LCCもほかのキャリアも安全面では全く違いがないことがわかります。

もしどうしても気になるのであれば、LCC各社が実施する安全への取り組みをチェックするといいでしょう。

以下に、主な日本のLCCの安全向上のための取り組みをご紹介します。
参考として、LCCの一つ上に位置するMCC(ミドルコストキャリア)と、ANAやJALと同じFSC(フルサービスキャリア)の取り組みもまとめました。

ピーチ・アビエーション

ピーチは「安全」こそが何よりもの優先事項と位置付けている、高い安全性と安さの両立に努めている航空会社です。
世界で安全な機体だと認められているA320やA321を使用しています。

2024年12月にANAの完全子会社となりましたが、パイロット育成制度を導入するなど独自路線にも目が離せません。
欠航率はJALやANAと遜色なく、安定した運航を維持しています。

ジェットスター・ジャパン

親会社をカンタス航空に持つジェットスター・ジャパンでは、安全の確保は「人への配慮から」を基本に、安全な就航を心がけています。

JALよりも厳格な出発ゲートでの手荷物検査の実施を行うなど、外的なリスクへの備えも厳重です。

ジェットスターグループとして2025年LCC安全度ランキング2位を誇り、数あるLCCの中でも安全性の高さが伺えます。

スプリングジャパン

スプリングジャパンはJALの連結子会社として、国内線や中国への国際線を中心に運航しています。

安全」「誠意」「笑顔」を経営の3Sとし、安全推進委員会やアルコール対策特別委員会の設置のもと、日々の安全運航に努めるLCCです。

機体整備はJALグループで委託状況が統一されており、JALと同じJALエンジニアリングへの委託によって同質の安全基準による整備が行われています。

スカイマーク

スカイマークはMMCに位置づけられる航空会社です。
元パイロットなど、航空会社OBである整備のエキスパートを安全担当顧問として迎え入れ、社をあげて安全性向上に取り組んでいます。

国土交通省「運航輸送サービスに係る情報公開」において、2017年から6年連続で定時運航率第1位を獲得しており、安定した運航にも定評のあるMMCです(スカイマーク「会社概要」より)

AIR DO

安全を絶対的使命として追求する」ことを企業理念の冒頭に掲げるAIR DOは、スカイマークと同じくMMCです。

曖昧な判断をしない、コミュニケーションを大切にするなど、誰にとってもわかりやすい安全行動指針を提示しています。

健康経営に取り組んでいる点も注目です。
喫煙率や睡眠の割合など複数の目標値を設定したり、推進体制を敷いたりすることで、従業員の健康づくりに努めています。

スターフライヤー

スターフライヤーはMMCに分類されることが多く、安全運航の取り組みにはさまざまな指針を掲げています。

毎年11月を「安全推進活動強化期間」としており、より一層の安全活動にも取り組んできました。

2023年の安全報告書によれば、航空事故・重大インシデント、飲酒によるアルコール検出事案はいずれもゼロです(スターフライヤー「安全報告書 2023年度」より)

FSCの安全性への取り組み

ANAやJALのようなFSCはLCCとは違い、サービスが幅広く充実しています。
その分さまざまな手間やコストがかかるので、LCCよりも高額な傾向ですが、安全性の取り組みも徹底しているのです。

ANAやJAL以外のFSCについて、安全性の取り組みをまとめました。

FSC名 安全性への取り組み
ソラシドエア ・経営基盤かつ航空輸送の原点として安全を掲げている

・2023年の航空事故、重大インシデント、イレギュラー運航はいずれもなし(ソラシドエア「安全報告書(2023年度)」より)

フジドリームエアラインズ ・地域同士を結ぶリージョナル空港として、安全な空の旅の提供を目標としている

・2023年度の安全上のトラブルは過去3年間でもっとも少なかった(フジドリームエアラインズ「2023年度 安全報告書」より)

ソラシドエアやフジドリームエアラインズはFSCに分類され、航空券代金にサービス代金が含まれています。

快適なフライトを過ごせるだけでなく、安全に対してもしっかりと取り組んでいるので、価格にふさわしい旅が楽しめるでしょう。

LCCだからこそ自分らしい快適な旅ができる!

LCCだからこそ自分らしい快適な旅ができる!

LCCもレガシーキャリアも安全性に違いがないことがわかると、LCCの「破格の安さ」はとても大きな魅力です。

ここではLCCのメリットと、LCCだからできる旅の楽しさについて、ふれておきましょう。

旅のグレードアップができる

LCCの利用でチケット代を抑えると、浮いたお金で旅のグレードアップができます。
ホテルをランクアップしたり、贅沢な食事をしたり、訪問先を増やしたり、旅の楽しみを広げられるのです。

レガシーキャリアと比べて数万円の差が出ることもあり、差額で旅の質を向上できるでしょう。

必要なサービスのみセレクトできる

LCCの最安値プランでは、必要最低限のサービスしか含まれていません。
予約する時に必要なサービスのみをセレクトできるので無駄がなく、自分好みの旅行が楽しめます。

求めるサービスによってプランを変えれば、価格を抑えつつ充実したフライトを送ることができます。

各社独自のサービスがある

LCC各社は、安さだけではなく独自の魅力や強みを発揮しようと、いろいろな努力を行っています。

機内サービスで軽食を出すジェットスターや、ANAマイルから交換可能なポイントを提供するピーチなどが例です。

こうしたオリジナリティあふれる各社のサービスもチェックして、LCCだからできるおトクで快適な旅をアレンジしたいですね。

まとめ:LCCの安全性は十分高い。安さの理由は企業努力

lcc-safety

LCCは安いから危険、安全性が低いといった情報は誤解です。
チケット代の安さは価格戦略や企業努力からなるもので、安全性とは関係ありません

飛行機の運行については国が定めた厳格な基準をクリアしなければならず、この基準にLCCとFSCにおける差はないため、安全性も十分高いと言えます。

飛行機代を抑えたいなら、安全で格安なLCCを候補に入れてみてください。